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水戸地方裁判所 昭和60年(ワ)180号 判決 1987年8月17日

原告

小沼茂

ほか一名

被告

鎧塚梅夫

主文

一  被告は原告小沼茂に対し金五五六万一六〇〇円及びこれに対する昭和五九年九月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告小沼チエ子に対し金五〇三万一六〇〇円及びこれに対する右同日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

五  第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

一  原告ら代理人は、

1  被告は、原告小沼茂に対し金一一五四万円、原告小沼チエ子に対し金一〇九〇万円、及びそれぞれ右各当該金員に対する各昭和五九年九月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

1  (交通事故の発生)

(一)  日時 昭和五九年九月二一日午後一〇時一五分頃

(二)  場所 茨城県東茨城郡美野里町大字西郷地一五六三の八先道路交差点

(三)  被害車 自動二輪車(品川を四六三二)

右運転者 小沼正人

(四)  加害車 普通乗用車(茨五六せ二六七三)

右運転者 被告

(五)  事故態様 被害車が国道六号線道路上を水戸方面に向かい直進中のところ、右から左へ横断するため加害車が交差道路を直進して交差点内において出会頭に衝突。

(六)  結果 小沼正人は、肺挫傷の傷害を受け、同日午後一一時四〇分美野里消化器科外科病院において死亡。

(七)  その他 加害車は進行道路よりも明らかに幅員の広い前記国道に進入し被害車の直前に飛び出したものである。

2  被告は加害車を保有し、これを自己のため運行の用に供していた者である(自動車損害賠償保障法三条責任)。

原告両名は、正人の実父母であり、各二分の一の法定相続分により正人の権利を相続取得した。

3  (損害)

(一)  葬儀費用(原告茂分) 金八〇万円

正人の父原告茂は正人の葬儀費用約一四〇万円を支出したが、相当因果関係のある損害として金八〇万円が相当である。

(二)  逸失利益 金三五二七万二〇〇〇円

正人は、事故当時満二〇歳(昭和三九年五月二日生)の健康な男子で、専門学校在学中であつたが、事故の翌年春に卒業と就職を予定していた。本件事故により失つた右得べかりし利益の額の算定内容は次のとおりである。

(1) 年間収入 金三九二万三三〇〇円

(昭和五八年賃金センサス第一巻第一表男子労働者企業規模計全年齢学歴計による。)

254,400×12+870,500=3,923,300

(2) 生活費控除 五〇パーセント

(3) 就労可能年数 六七歳までの四七年間

(4) 中間利息控除 ライプニツツ係数一七・九八一

(5) 算式

3,923,300×0.5×17.981=35,272,428

(6) 原告ら相続額 各一七六三万六〇〇〇円(千円未満切捨)

(三) 慰藉料 合計金一五〇〇万円

原告らの子は長男正人と二男勇人だけであり、正人は、難病に苦しむ弟勇人の将来を担うべき立場にあつて、父母及び弟にとつてかけがえのない存在であつた。その生命を奪われた正人本人及び原告両名の精神上の損害は深刻、重大である。

そこで、右損害を償うべき慰藉料額は、合計金一五〇〇万円が相当であり、原告両名の一人当たり金額は各七五〇万円となる。

4  損害の填補

以上の損害額合計五一〇七万二〇〇〇円(原告茂二五九三万六〇〇〇円、原告チエ子二五一三万六〇〇〇円)に対し自賠責保険金各一〇〇〇万円(計二〇〇〇万円)の支払いを受けたから、これを控除する。

5  弁護士費用損害

原告らは、弁護士である原告ら訴訟代理人に対し、本訴提起追行を委任し、着手金として各一〇万円宛を既に支払い、さらに弁護士報酬規程に基づき終了時に報酬を支払う旨を約したので、被告は本件事故と相当因果関係ある弁護士費用損害として各一〇〇万円の賠償義務がある。

6  よつて被告に対し、原告茂は賠償請求権額金一六九三万六〇〇〇円のうち金一一五四万円、原告チエ子は賠償請求権額金一六一三万六〇〇〇円のうち金一〇九〇万円、及びそれぞれ右各当該金員に対する正人死亡の翌日である昭和五九年九月二二日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告代理人は、「原告らの各請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、次のとおり述べた。

1  (請求原因に対する認否)

(一)  請求原因1項については、(一)ないし(六)は認めるが、(七)は争う。

(二)  請求原因2項は認める。

(三)  請求原因3項は争う。本件事故による原告側の損害は次のとおり合計金二八三八万八一〇二円となる。

(1) 逸失利益 金一六九三万八一〇二円

(2) 慰藉料 金一一〇〇万円

(3) 葬儀費用 金四五万円

(四)  請求原因4項の各保険金額支払は認める。

2  (抗弁)

(1)  本件事故は、正人が制限を越えたスピードで自車を進行させ転倒滑走して被告運転車右側後部車輪付近に追突したものであり、被告に過失はない。

(2)  仮に被告に過失があつたとしても、被害者正人には右の過失があるから、賠償額算定に当りこれを斟酌すべきであり、賠償責任額は損害額の三割を越えないものである。そうすると、原告らの合計二〇〇〇万円の自賠責保険金受領により、被告の支払義務は存しないことになる。

三  証拠関係〔略〕

理由

一  原告主張の請求原因1項(一)ないし(六)の各事実及び同2項は、当事者間に争いがない。

二  成立につき争いのない甲第四号証及び調査嘱託の結果を総合すれば、本件事故現場の道路交差点は、路側帯を含む車道幅員約九・七メートルの国道六号線(中央線及び側線により上下二車線の通行帯が画されているもの)に幅員約四メートルの町道が斜めに交差し、被告運転車両から見れば右斜め方向に国道を横断する形態の変形十字路交差点であり、歩行者用押ボタン式信号機が設置されているが、車両対車両の交通整理は行われていないこと、正人運転車両が進行した国道は、平坦なアスフアルト道路で、事故当時、路面は乾燥しており、最高時速五〇キロメートルの速度規制があつたこと、被告運転車両が進行した町道は、交差点入口で道路標識による一時停止の規制があつて路面に停止線が引かれており、交差点入口で被告運転車両から見て左側(石岡方面)は、国道に沿い食堂「芳来」の来客用駐車場があつて、直線状に走る国道上石岡方面の見通しは良く、夜間でも目測で一五〇メートルは見通せる状態であつたこと、被告運転車両(以下、被告車と略称)は車長三・九九メートルの四輪自動車であり、正人運転車両(以下、正人車と略称)は車長二・〇三メートル、排気量四〇〇ccの自動二輪車であること、以上の事実が認められる。

前掲甲第四号証及び被告本人尋問の結果(一部)を総合すると、被告は、右駐車場に被告車を駐あて食堂「芳来」で食事をしたのち、同車を運転して一旦町道に出たうえ、前記停止線付近で一時停止をし、国道上を右(水戸方面)から来た自動車の通過を待つて発進したものであるが、その際、左(石岡方面)から国道上を正人車及びその後続車両が進行して来るのを右各車両の前照灯で発見しており、その時点での正人車と被告車との距離が約八五・六メートルにすぎなかつたのに、被告は、正人車到達前に横断を完了できるものと即断し、被告車を交差点内に進入させ、低速で約一三メートル進行して、被告車が交差点中央を通過して正人車の進路を遮る位置に至つたとき、左側面の後輪直前部分に正人車が衝突し、そのため被告車は後部を右に約九〇度振つて停止したこと、正人車は、国道の水戸方面行車線内やや左寄りを道路に沿い直進して来たものであるが、衝突地点の約四〇メートル手前から道路に沿いほぼ直線状に、長さ約二〇・五メートルの制動効果によるタイヤスリツプ痕と、これに続いて距離約一九・八メートルにわたり車体による擦過痕及び幅の広いタイヤスリツプ痕とを路面に残しているもので、衝突地点の約二〇メートル手前付近で左に横倒しになり、そのまま滑走して被告車に衝突するに至つたものであること、以上の事実を認めることができる。

被告本人の供述中、右認定に反する部分は、甲第四号証の記載に照らして措信することができず、他に右各認定を覆すに足りる証拠はない。

三  右認定の事実によれば、被告は、幅員の明らかに広い交差道路(国道)に進入するに当たり、該国道上を左方から接近して来る正人車を僅か約八五・六メートルの距離に発見したのに、被告車を発進させて進行を続け正人車の進路を遮つたのであるから、事故の発生につき過失があり、被告の無過失の主張は採用できない。従つて、被告は自賠法三条による損害賠償責任を免れることはできない。

もつとも、前認定の事故状況によれば、正人車が制動途中で転倒し横倒しになつたまま滑走したうえ被告車との衝突により停止するに至つた関係で、正人車の制動措置直前の進行速度を前記滑走痕の長さだけから推計することはできないが、転倒前のタイヤスリツプ痕の長さ、滑走中姿勢制御不能となつて転倒したこと、転倒後の滑走痕の状況、衝突による被告車後部の横方向移動の状況等から判断して、正人車は少なくとも時速七〇キロメートルを優に越える高速で進行して来たものであると推認されるところであり、被害者正人においても、最高制限速度時速五〇キロメートル規制の道路を夜間に前示のような高速で自動二輪車を進行させた点において相当重い過失があることを否定することはできない。従つて、右過失を損害賠償責任額を定めるについて斟酌するのが相当である。

四  損害及び賠償責任額

成立につき争いのない甲第三号証及び原告両名各本人尋問の結果を総合すると、正人は、父原告茂、母原告チエ子夫婦間の長男として昭和三九年五月二日出生した事故当時満二〇歳の健康な男子で、昭和五八年三月地元の高等学校を卒業して同年四月に親元を離れ在京の東京写真専門学校(二年制)に入学し、東京都内に借間して実家からの仕送りとアルバイト収入とで遊学生活を送り、事故翌年の春卒業して就職することを予定していたものであり、昭和五九年九月二一日夜の本件事故の時は、東京から水戸市内の実家へ帰省の途次であつたこと、原告ら夫婦の子は正人と二男勇人(昭和四二年三月六日生)の二人であるが、勇人は心身障害児(ダウン症)であり、少年時から弟の面倒を良く見ていた正人は原告ら一家の精神的支えになつていたこと、正人の葬儀は会社員の父原告茂が喪主となつて施行し、同原告は約一四〇万円の葬儀費を支出したこと、以上の事実が認められ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

そこで、相当因果関係ある財産上、財産外の損害額及び被告の賠償責任額を算定すると、次のとおり判断される。

1  財産上の損害(弁護士費用を除く)

(一)  原告茂の葬儀費用損害

相当因果関係ある損害として金八〇万円をもつて相当と認められる。

(二)  正人の逸失利益損害

<1> 予定年間収入 原告ら主張のとおり三九二万三三〇〇円

<2> 就労可能年数 六七歳までの四七年間

右<1>及び<2>に基づき、生活費五〇パーセントを控除し、ライプニツツ係数一七・九八一を乗じて中間利息を控除した結果の三五二七万二〇〇〇円(原告ら主張に従い一〇〇〇円未満の端数切捨)と算定するのが相当である。

(三)  右の(一)及び(二)の各損害につき、前示被害者側の過失を斟酌すれば、右各損害額からそれぞれ四割を減じた六割相当額(次の(1)及び(2)の額)をもつて、被告の賠償責任額と定めるのが相当である。

(1) 葬儀費用損害賠償責任額 四八万円

(2) 逸失利益損害賠償責任額 二一一六万三二〇〇円

右(2)の逸失利益損害の賠償請求権は、相続人である原告両名に相続分各二分の一の各一〇五八万一六〇〇円の割合で帰属する。

2  財産外の損害

前認定の諸事実に被害者側の過失を含む諸般の事情を加えて考慮すれば、被害者正人の精神上の損害を償うべき慰藉料額は五〇〇万円、父母である原告両名の各個別の精神上の損害を償うべき慰藉料額は各一五〇万円の合計八〇〇万円をもつて相当と認められ、正人の慰藉料請求権は原告両名において各二分の一の割合で相続承継したので、結局原告一人当たりの慰藉料請求権額は四〇〇万円となる。

3  損害の填補

以上の原告両名に対する被告の賠償責任額については、原告が請求原因4項で主張する損害填補(原告一人当たり一〇〇〇万円)がされた事実は当事者間に争いがないから、これを控除すると、弁護士費用を除く財産上、財産外の損害に対する被告の賠償義務額は

<1>  原告茂に対する分 金五〇六万一六〇〇円

<2>  原告チエ子に対する分 金四五八万一六〇〇円

となり、その限度においてそれぞれ請求が認容されるべきである。

4  弁護士費用損害

原告らが弁護士訴訟代理人に委任して本件訴訟を提起追行してきたことは明らかであるところ、訴訟の内容、経過に鑑み、相当因果関係ある弁護士費用損害として被告において賠償責任を負担すべき金額は、原告両名の前記各請求認容額の約一割に当たる原告茂分金五〇万円、原告チエ子分金四五万円と認めるのが相当である。

五  以上の次第により、損害賠償として被告は、原告茂に対し金五五六万一六〇〇円、原告チエ子に対し金五〇三万一六〇〇円及びこれらに対する正人死亡事故翌日の昭和五九年九月二二日以降それぞれ完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告らの本訴各請求は、右義務の限度において、理由があるから、これを正当として認容すべく、その余を失当として棄却すべきものとし、民訴法九二条本文、九三条一項本文、一九六条一項に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺惺)

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